精神科の入院形態、など雑感。
精神科の他科と違い特徴的なものの一つが、入院形態という概念だ。
精神保健福祉法や心神喪失者等医療観察法などの関係法規によって、入院形態が定義されている。
入院形態は、大きくわけると、同意型の入院と非同意型の入院にわけられる。
同意型(任意入院)は患者さんが自分の意志で入院していて、退院したいと思えば原則的に退院できる。
患者さんが入院の意志がなかったり、入院の必要性が理解できなかったりしても、法に基づいた基準、手続きを経て、入院治療を実施することができる。
また、退院も患者さん本人の意向だけでは原則的にできない。
非同意型入院が必要とされたケースとしてわかりやすい例として、吾妻ひでおさんの著書「アル中病棟」の、入院にいたる描写が参考になると思う。
吾妻さんは、アルコール依存症であり、この時には、依存により生じた幻覚妄想による夜驚、自殺企図、交通事故やケガ、親父狩りの被害にあうなど、危険な事態が続いても飲酒をやめられず、病状が深刻で本人の安全を本人が保つことができない。生命に関わる状況であると言えそうだ。
当然仕事もできておらず家庭には不穏な気配が満ちている。まさに底付きの状況である。
親父狩りにあった後、
恐らく、以前から病院に入院相談されていたであろうご家族が、
酩酊状態の吾妻さんを強引に病院に連れて行く。
吾妻さん本人は、この時でさえも飲酒への強いこだわりを示し、入院に抵抗する。
そこで、ご家族同意のもとの強制入院となったようである。
そしてここから、吾妻さんはアルコール依存症治療を経て断酒の意志を獲得され回復を歩まれて行く。
精神疾患の症状では、
患者さん本人が生きる意志や回復への意志を持ち得ることができなかったり、自分や他者を傷付けたり損なうような行動を続けるような状態を呈する場合がある。
その状況を脱し、ふたたび、生きることについて考えていくために、
患者さんの生命と権利を保護するために、非同意型の入院形態がある。
とはいえ…患者さんご本人のお気持ちに立てば、非同意型の入院に、そういった前提では納得できない苦痛や屈辱を感じられた方もいらっしゃるだろう。
最後に、吾妻さんの大変な苦しみが生々しく描かれた、一節を紹介する。
弱さは罪ではない。弱さは敵ではない。
なぜならそれも自分自身だから…。
ただ、自分の弱さから目を背けずに、
そして自分の弱さと戦うというよりは、
それを"乗り越えて"いけたら素晴らしい。
そんな風に思う。